マルチモーダルRAG・VideoRAGとは?RAGとの違いは?近年、大規模言語モデル(LLM)の飛躍的な性能向上によって、テキストベースの応答生成や要約、推論などが大きく進化してきました。そのなかでも注目を集める技術が、RAG(Retrieval-Augmented Generation)です。RAGは外部のドキュメントやナレッジベースから必要な情報を取り出し(Retrieval)、その情報を活用して生成(Generation)を行う仕組みです。GPT-4やLlama 2などのLLM単体ではカバーしきれない最新情報やドメイン特化の知識を補うため、企業のチャットボットや文章要約ツールなどで急速に導入が進んでいます。しかし従来のRAGはテキスト情報を中心に取り扱うことが多く、映像や音声、画像といった非テキスト要素を積極的に活用するには仕組みが不足していました。そこで登場したのがマルチモーダルRAGとVideoRAGです。いずれも「RAGの枠組みを拡張し、テキスト以外の情報源を取り込む」ことを狙いとしていますが、以下のようにややフォーカスが異なります。マルチモーダルRAG文字どおり複数のモダリティ(テキスト、画像、音声、センサー情報など)を同時に扱うRAGです。たとえば商品画像とレビュー文を併用した商品検索や、音声ログと文章マニュアルを組み合わせたコールセンター解析など、幅広い場面での応用が期待されます。VideoRAGマルチモーダルRAGの一種ではあるものの、特に動画(映像)に焦点を当てています。映像中のシーン切り替えや人物の動き、音声トラックなどを外部データとして参照し、LLMがよりリッチなコンテンツ生成や要約・検索を行う仕組みです。YouTubeやTikTokなど、膨大な動画データを活用する企業には有用なアプローチと言えます。一方で、テキストのみを取り扱う従来のRAGと比較すると、マルチモーダルRAG・VideoRAGでは「映像や音声など非テキストの分析・抽象化」といった手順が追加で必要となるため、開発の難易度や計算資源の要求が高くなる点が大きな違いです。マルチモーダルRAG・VideoRAGを用いた事例広告代理店でのCMフィードバック(電通のPoC)電通が進めたPoCでは、テレビCMやWeb動画広告をマルチモーダルRAGの仕組みで分析し、視聴者の反応やコメント欄のテキストを組み合わせて包括的に評価するシステムを開発しました。具体的には、映像の内容(色使いや出演者の表情など)とSNS上のテキスト反応を結びつけ、広告効果をリアルタイムに測定する試みです。2025年上半期のレポートによると、10万人規模の視聴データからCM効果を評価するのにかかる分析時間を従来比で40%以上短縮したと報告されています。動画学習プラットフォームでの自動要約・検索(Udemyの導入事例)世界的なオンライン学習プラットフォームUdemyは、膨大な動画コンテンツ(講義動画)を抱えています。VideoRAGの技術を用いて、講師の音声トラックから生成した文字起こし、講義資料のPDF、受講者のQ&Aログなどを統合的に扱う仕組みを構築しています。これにより「動画の特定のシーンと関連するスライド」「同様の質問がなされたタイムスタンプ」を一括して検索し、受講者がスムーズに学習内容を復習できるようになりました。Udemyの公開資料によれば、これによって質問応答のサポートコストが月間で約15%削減されたとのことです。コールセンターでの音声解析とスクリプト連動(NTT東日本の事例)NTT東日本のコールセンターでは、毎日数万件単位の問い合わせ音声を蓄積しています。これらの音声データをマルチモーダルRAGに取り込み、音声トランスクリプト+テキストベースのFAQデータベースと連動させることで、顧客が話したワードと対応するFAQ文書やマニュアル文書を瞬時に検索・提示する仕組みを構築しました。実運用初年度の2024年には、オペレーターの対応時間を年間で約1,000時間分削減することに成功しています。コンテンツ監視とレコメンド(NetflixのVideoRAG活用)Netflixは、独自の動画コンテンツ分析システムを進化させるためにVideoRAGの研究に投資しています。映像シーンやセリフデータを自動でタグ付けし、それをRAGの仕組みで検索できるようにすることで「特定のキャラクター同士が対峙するシーン」「名セリフが出る場面」などを簡単に抽出可能にしました。さらに、視聴ログやレビューコメントも統合し、ユーザーに最適化されたレコメンドを実現しようとしています。推定では、早ければ2026年にはフル運用が始まると言われ、月間約2億人以上の視聴者データを活用すると想定されます。マルチモーダルRAG・VideoRAGのメリット・デメリットを比較マルチモーダルRAG・VideoRAGは従来のRAGを拡張した強力な仕組みですが、その分複雑さも増しています。ここでは、主なメリットとデメリットを整理します。【メリット】多様な情報ソースから価値を創出テキストだけでなく、画像や音声、映像などのマルチモーダルデータを統合することで、より包括的な解析や検索が可能になります。たとえば製品のレビューと実物画像を合わせて評価したり、動画内容とSNSのテキスト反応を突合するなど、新たな知見を引き出せます。ユーザー体験の向上長い講義動画や映画などを一気に要約し、特定のシーンやテーマを検索可能にするVideoRAGは、ユーザーエンゲージメントを高める大きな要因となります。たとえばオンライン学習プラットフォームでは、受講者が疑問を持った瞬間に該当シーンを瞬時に再生することで学習効率を向上させられます。付加価値の高いレコメンド機能映像や音声情報を含めたマルチモーダルデータを解析し、ユーザーの嗜好を深く理解することができるため、より個々人に最適化されたレコメンドを実現しやすくなります。NetflixのVideoRAG事例のように、細かなシーン単位の好みを把握して適切な作品を提案するといった高度な手法が期待されます。【デメリット】開発・運用の難易度が高い非テキストデータの解析には画像認識や音声認識、動画解析などの手法を組み込む必要があり、それらをRAGと連携させるための設計が複雑になります。GPUリソースの大幅な確保や特殊なフレームワークの導入が求められる場合も多く、初期開発コストが高騰しがちです。大規模なストレージとインデックス管理が必要動画や音声データはサイズが大きく、これを外部データベースとして扱うには高性能のストレージとインデックス構造が必要になります。たとえば1,000時間分の映像を蓄積し、シーン別に特徴ベクトルを保持するには数テラバイト〜数十テラバイト級の容量が必要なケースもあり、運用コストが増大します。モデルのバイアスや誤認識リスク画像・音声認識モデルが誤認識を起こしたり、データセットの偏りによるバイアスが出る場合があります。そこにRAGを組み合わせることで、誤った外部データ参照や回答を生成するリスクが生じるため、テストと監視体制をしっかり整える必要があります。マルチモーダルRAG・VideoRAG開発方法や費用は?マルチモーダルRAG・VideoRAGを導入するには、主に以下の開発プロセスとコスト要素が考えられます。要件定義・PoC(Proof of Concept)まずは小規模なデータセットでPoCを実施し、技術的課題やビジネス的なROIを検証します。クラウド上で実験する場合、GPUインスタンスやストレージコストで月額10万〜50万円ほどかかるケースもあります。音声・映像データを扱うため、追加で数十時間〜数百時間分の動画を事前に下処理(音声文字起こしやフレーム分割など)する必要があり、その分の工程管理費用も考慮します。モデル選定・カスタマイズマルチモーダルRAGとしては、PyTorchやTensorFlowなどのフレームワークをベースに、特定モーダル(映像や音声)を解析するモデル(CNNやTransformer派生モデルなど)を統合します。VideoRAGの場合、さらに映像のシーン検出や動作認識モデルを組み合わせる必要があり、オンプレミス導入を検討するならGPUサーバー調達費(1台あたり300万〜500万円)が初期投資として発生することもあります。クラウドでの大規模学習・推論を行うなら、AzureのMachine LearningリソースやAWSのSageMaker、Google Cloud Vertex AIといったサービスを利用し、月額100万円以上のリソース課金が見込まれる場合もあります。外部データベースの構築とインデックス設計RAGの根幹である検索機能を実装するには、映像や音声データの特徴量を格納するデータベースが必要になります。ElasticsearchやFAISS、Milvusなどのベクトル検索エンジンを活用するケースが多いです。映像データが数千時間以上に及ぶ場合、ストレージコストやバックアップ体制に加え、インデックスの更新コストも考慮しておく必要があります。年間で数百万円〜数千万円規模の予算となることも珍しくありません。本番運用と継続的学習ある程度のPoCが成功してから、本番運用環境に移行します。運用開始後も、定期的なモデルアップデートやデータ拡充が不可欠です。リアルタイム解析を必要とする場合、映像ストリーミングとの連携や低レイテンシ設計など、追加の技術課題が出てきます。運用フェーズでは人件費やクラウドの従量課金を合わせて、月額10万円〜数百万円が継続的にかかります。大規模企業では、年間1,000万円以上の開発・運用費用を投じている事例も存在します。マルチモーダルRAG・VideoRAGについてMojiにご相談ください!マルチモーダルRAG・VideoRAGは、テキスト情報だけでは得られない豊富なインサイトや高度な自動化を可能にする一方、開発・運用に高度な技術力とリソースが必要です。映像や音声、画像データを適切に扱い、RAGと連携させるためには専門的なノウハウが不可欠となります。株式会社Mojiでは、この分野での豊富な実績と経験を活かし、お客様がマルチモーダルRAG・VideoRAGを円滑に導入できるよう、以下のサービスを提供しています。PoC立ち上げと技術アドバイザリー小規模プロジェクトで実証実験を行い、ROIや技術的課題を明確化する段階から、専門コンサルタントがサポートいたします。音声文字起こしや映像解析エンジンとの連携、ベクトル検索の最適化など、初期段階での要件整理を丁寧に行います。モデル開発・データベース設計PyTorchやTensorFlowをベースにした独自アーキテクチャ開発や、既存のオープンソースモデルを活用したカスタマイズなど、多様なアプローチに対応可能です。映像特徴抽出モデルやトランスクリプト生成の精度向上にも注力し、確かな品質のVideoRAGシステムを構築します。クラウド&オンプレミス運用支援マネージドサービス(Azure, AWS, GCP)やオンプレミス環境、ハイブリッドクラウドなど、多様なインフラ環境へのデプロイを支援します。大規模GPUクラスターを活用するケースや、大容量ストレージを確保するケースでも、適切なアーキテクチャ設計を行い、最適なコスト運用を目指します。継続的なサポートと拡張一度導入した後も、モデルの再学習やバージョンアップ、対象データ拡大に伴うインデックス設計の改良など、運用・保守にわたってきめ細かくサポートいたします。ビジネス環境の変化に合わせ、柔軟にシステムを拡張していくための技術顧問サービスもご提供しています。例えば、大手EC企業の動画レビュー分析では、マルチモーダルRAGを導入し、ユーザーが投稿した商品レビュー映像とテキストコメントを統合することで、新商品の改善点をリアルタイムに抽出。これにより商品のリリースサイクルを約1カ月短縮する効果が確認されています。また、通信キャリアのコールセンターでは、音声データ(問い合わせ内容)とマニュアル文書の自動参照をマルチモーダルRAGで実現し、オペレーター対応時間を月間で20%ほど削減しました。「画像や動画、音声などを含む大規模データを、もっと有効に使いたい」「既存のRAGではテキスト中心の解析しかできずに困っている」「映像分析や音声解析をLLMと組み合わせて新たな価値を生み出したい」といったお悩みをお持ちの方は、ぜひMojiにご相談ください。豊富なプロジェクト実績を持つ当社の専門チームが、貴社のニーズに最適なマルチモーダルRAG・VideoRAGソリューションをご提案し、導入から運用まで全面的にサポートいたします。お問い合わせは弊社Webサイトまたはお電話にてお気軽にどうぞ。